スタッフの読書録」カテゴリーアーカイブ

ガスライティングという支配

このコーナーは、フェミカン神戸スタッフが、最近読んだ本の個人的な感想を書いています。

今回紹介する本

ガスライティングという支配 関係性におけるトラウマとその回復
アメリア・ケリー[著]
野坂祐子[訳]
日本評論社

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ガスライティング(Gaslighting)という言葉、聞かれたことはあるでしょうか?

私は、この本を通じて初めて学んだのですが、
相談現場でよくお出会いする
“これくらいのことで…”「私がおかしい」「こんなことも分からない私がだめ」「私の感じ方が間違えている」
…と思いこんでしまっている(混乱している)方に
何が起きているのか、回復のためにどう支援するのか、のヒントをもらえました。

ガスライティングとは、加害者の作った“嘘のネガティブなストーリー”を、繰り返し、いろんな言い方で伝えることで、嘘が本当かのように思わされてしまう、情緒的コントロール(emotional abuse)です。

よくある7つのテクニックとして次のものが紹介されています。

否認 / 聞こえないふり / 矮小化 / 価値下げ / 無効化 / ステレオタイプ化 / 論点のすり替え

例えば、DVの場合だと
「これくらいのことで通報しても相手にされないよ(矮小化・ステレオタイプ化)」とか
「離婚するっていうことは、責任を放棄するつもりなんや(論点のすり替え)」というふうに、
間接的に相手を不安にして、相手の行動を思い通りにしてしまう言動です。

いわゆる“(人格を否定する)暴言”とは違って、言われた人も、周りの人も、被害だと気づきにくいのではないでしょうか。

でも、立派に(?)相手の心を傷つけて、トラウマなどの害を及ぼす暴力なんです。

本を読みながら、改めていろいろなクライエントさんを振り返ると、
DVだけでなく、親子における精神的暴力、母親からの言葉、または職場のモラハラのなかでも用いられる、とってもわかりにくい(巧妙な)方法でのコントロールも、
「これもガスライティングやん!」と思うことがたくさんありました。

他の暴力といっしょで、「これはガスライティングだ」と気づくことが、その支配から出る1歩ですね。

また、ガスライティングは女性が特に被害を受けやすく、ジェンダーバイアスによる社会の構造的暴力とも密接な関係があります。

本書では、個人と個人のガスライティングだけでなく「社会的ガスライティング」という見方も紹介されており、「個人的な問題は社会的な問題(personal is political)」を軸に活動している私にとってはとても興味深い視点です。

例えば、夫婦で車を購入しに行ったとき、なぜかバイヤーさんが夫の方ばかりを見て説明をされて、、決定権の場面では「ご主人さんどうですか?」みたいな経験はないでしょうか?
もしかすると、“女性は無力だ”というステレオタイプが、そのような言動を生んでいるのではないかな、、と思いました。

また、私自身も気づかないうちにガスライティングをしている(加担している)こともあるかもしれません。

そして、ガスライティングからの回復のために役立つ
様々なワークや、
ヨガや呼吸法、タッピングなど身体を使ったリソーシングもたくさん紹介されています!

これを機会に、学びを深めたいと思っています。

わたしは黙らない 性暴力をなくす30の視点

このコーナーは、フェミカン神戸スタッフが、最近読んだ本の個人的な感想を書いています。

今回紹介する本

わたしは黙らない 性暴力をなくす30の視点』
合同出版編集部編 合同出版

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表紙の女性のイラスト、フラワーデモを連想させる花を持った女性に惹かれて手に取り、
当法人が企画した研修で講師に来てくださった方々が、本書に寄稿していることにも興味をもち、読み始めました。

過去、私は痴漢や性被害に遭うのは”自分が悪いから”だとずっと思っていました。
男性に笑顔で接しながらも、隙を見せないこと、
軽々しく触っていい女だと思わせないようにしないといけない、と信じていました。
たとえセクハラまがいのことを言われても、
笑顔でいなしながら相手のメンツを保つよう上手にふるまうことが大人の女だと思っていました。

だから痴漢に遭ったときは、夜にひとりで電車に乗っていた自分が悪いと自分を責めましたし、痴漢に遭ったことを誰にも話せませんでした。
わたしは「黙っている」人でした。

「女はこうあるべき」「女は男性の機嫌を上手にとることが出来て一人前」という社会の価値観のなかで「黙っている」ことで自分を守ってきたのです。

フェミニストカウンセリングに関わることで、「黙らない」人がいることを知りました。
性暴力をなくすための活動や発信をしている人がたくさんいることも知りました。

本書には、34名の当事者や、長年にわたり第一線で性暴力被害者を支援してきたアクティビストやジャーナリスト、研究者らが、性暴力の現状やこれまでの動き、今後の展望などを寄稿し、まとめられています。

あなたも「黙らない」人の声を聴いてみてください。

わたしは黙らない 性暴力をなくす30の視点』
合同出版編集部編 合同出版

マイクロアグレッション/ ずるい言葉

このコーナーは、フェミカン神戸スタッフが、最近読んだ本の個人的な感想を書いています。

今回紹介する本

『日常生活に埋め込まれたマイクロアグレッション 人種、ジェンダー、性的指向:マイノリティに向けられる無意識の差別』
デラルド・ウィン・スー著、マイクロアグレッション研究会訳(明石書店)

『10代から知っておきたい あなたを閉じこめる「ずるい言葉」』
森山至貴著(WAVE出版)

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マイクロアグレッションという言葉を聞いたのは初めてでしたが、
「人種、ジェンダー、性的指向:マイノリティに向けられる無意識の差別」の副題に惹かれて読み始めました。

「マイクロアグレッション」とは、「あからさまな」差別とは異なり、
曖昧で見えにくい差別のことです。

人種や少数民族、セクシャルマイノリティ、女性など、
社会のマイノリティに対して向けられる偏見や先入観から起こるもので、
差別した側に差別の自覚のないことも多いです。
マイクロとありますが、差別された側のダメージが小さいわけではありません。

最終章は「心理支援におけるマイクロアグレッションの影響」でした。
自分には偏見などないと思っている支援者が二次被害を与えているかもしれないと考えると、
少し怖くなり、人権意識に敏感でありたいと感じました。
内容が奥深く、一度読んだだけで理解できたとはとても言えません。
読み返し理解を深めたいと思う本です。

そして、マイクロアグレッションについて、わかりやすく書いてあるのでは、と期待して手に取ったのが『10代から知っておきたい あなたを閉じこめる「ずるい言葉」』です。

カバーの表紙の内側に折り込まれている部分(「そで」と呼ぶそうです)には、
「大人より弱い立場にある子どもが『ずるい言葉』にだまされないようにするためのヒントを伝える本です。大人にも実感を持って読んでもらえると思います」
と書いてあります。
ここにはモヤッとくる29のシーンとその処方箋が示されていて、
世の中で当たり前に使われている「ずるい言葉」の何が問題なのか、
そこから抜け出すためにはどんな考え方を取り入れたらいいのか、具体的に書かれています。
「ずるい言葉」の中には、自分も使ったこがのある言葉が含まれていて、ドキッとさせられました。

マイクロアグレッションは気をつけていたとしても起こり得るもの。
自分が間違ったときには、自分の偏見を受け入れ、反省して同じことをしないよう心がけていくしかありません。

どちらも自分を問われる本でした。

『日常生活に埋め込まれたマイクロアグレッション 人種、ジェンダー、性的指向:マイノリティに向けられる無意識の差別』
デラルド・ウィン・スー著、マイクロアグレッション研究会訳(明石書店)

『10代から知っておきたい あなたを閉じこめる「ずるい言葉」』
森山至貴著(WAVE出版)